2023年度(令和5年度)水野忠則特別記念賞受賞者の紹介

齊藤 忠夫さいとう ただお

齊藤忠夫君は1968年に東京大学大学院(博士課程)を修了し、東京大学において情報通信工学の教育・研究に携わってこられました。齊藤忠夫君の研究はプロトコル工学、コンピュータネットワークなどの多岐にわたっており、これらの中にはT-S-T構成のディジタル交換機や、ネットワーク層において確認応答を行わないプロトコル階層、ハブ型のローカルエリアネットワークなど、現在広く世界に活用されている方式の基礎となっているものが少なくありません。

大学院教育においては、同君は本務である電子工学専攻に加えて、独立大学院専攻であった情報工学専攻の学生も受け入れ、23名の課程博士と9名の論文博士を輩出されました。これらの中には大学や国立情報学研究所の教授として活躍された方も多く含まれています。また、同君は東京大学の大型計算機センター長、情報基盤センター長を歴任される中で、大学院生も多数参加していた我が国のインターネット技術開発の中心の1つであるWIDEプロジェクトやJPNICの活動を、センター長として支援されました。

同君は1998年から2001年にかけて電気・電子情報学術振興財団の理事長を務め、博士課程に進学を予定している修士課程学生に対する助成金である猪瀬学術奨励賞や博士課程在学中の私費外国人留学生に対する助成金である植之原留学生奨励賞を選考・授与されました。また、同君は2001年に東京大学を定年退職し、トヨタ自動車が東京に作ったトヨタIT開発センターのCTOに着任されましたが、東京大学在籍中から、トヨタIT開発センターをはじめとする研究機関に大学院学生をインターンシップに送り出すなど、大学院教育における産学協力を推進されました。

学会活動においては、電子情報通信学会のハンドブック委員会幹事、幹事長、副委員長、委員長を歴任され、電子情報通信に関する学問技術の体系化及びその公表を通じた社会貢献に尽力されました。

ICT環境が高度化・複雑化する中で、情報セキュリティの脅威への対応レベルを向上する目的で、多様な事業者が情報収集・分析および対応について情報共有し、業界の枠を超えて連携・協調するためにぜひとも必要な組織として一般社団法人ICT-ISACが設立されましたが、2014年にトヨタIT開発センター退職後、その理事長に就任され、現在も活躍中されています。

また、21世紀に入ると多くの企業で情報システム中心の経営が進められるようになりましたが、こうした変化に対応するよう、企業情報担当者や様々なレベルの技術者に対する講演などを企画する活動を続けておられます。

以上のように、同君が高度な技術の研究・発展と人材育成に尽くした貢献は、誠に顕著であります。